第1章 最悪の再会-3

 

 

 北川きたがわ灯里あかりは、小京都と称される地方都市に代々続く老舗料亭『北賀楼ほくがろう』の長女として生まれた。料亭の女将で灯里の祖母に当たるリツは、灯里の父で次男の一史ひとしの料理の才能を早くから見抜き、板前として厳しい修行を強いた。リツの命令は絶対で、万事につけ非常に厳しい人だったため、長男の一行かずゆきはこれ幸いと次男に重荷を押しつけて気楽なサラリーマンの道を選んだ。

 

 自らが後継者と決めた一史の結婚相手に、お茶やお花、着付けのたしなみがあり芯の強い織江おりえを選んだのもリツだった。しかし一史には、かねてから好きな女性がいた。苦労知らずのお嬢様でふんわりと女らしい、少し舌ったらずに話す万祐子まゆこと、一史は灯里が生まれてからも切れることができなかった。リツの眼を盗んでずるずると関係を続けているうちに、万祐子が妊娠してしまった。

 

 怒り心頭のリツに、穏やかで従順な一史が初めて頑なに抵抗した。そんな夫を見て、身を引くことをリツに申し出たのは織江だった。

 夫の愛が自分にないことは、結婚当初からわかっていたから。それでも心を通わすことができるのではと努力してきたが、灯里が生まれてもなお、秘かに万祐子を想う夫は自分以上に可哀想だと思った。

 人の心だけは、努力でどうこうできるものではない、ましてや力ずくでなど。間違った選択を軌道修正し、それぞれが幸福への道を歩む機会はいまだと織江は思ったのだ。

 

「一史さんと万祐子さんは愛し合っています。それに生まれてくる子供に罪はありません。どうかふたりを夫婦と認めてやってください」

「お前は、灯里は、どうするんだい?」

 そう訊くリツに、織江は「連れて行く」と答えた。

 

「それは許しません。『北賀楼』の次の後継者は灯里です。私が責任を持って、それにふさわしい娘に育て上げます。それに織江、あなたはまだ若い。私が見込んだあなたほどの女なら、これからいくらでも良縁があるでしょう。そのときに灯里がいたのでは、いろいろと難しいことが起こるでしょう。灯里は置いて行きなさい」

 『北賀楼』のことをまず第一に考え、自分の判断に絶対の自信を持つリツには、親子の情も男女の機微も所詮、甘ったるいデザートでしかなかった。リツにとって生きる糧は『北賀楼』が未来永劫に続くことであり、その人生にとってデザートなどなくても困らないものだった。

 

 それでも灯里を連れて行くと言い張る織江に、リツは言った。

「灯里を連れて行くのなら、万祐子との結婚も認めません。生まれてくる子は父親のいない子として生きていけばいい。ですが灯里は『北賀楼』の後継者で、私の孫です。必ずこの私が、幸せにして見せます」

 脅しとも宣告とも言える身勝手な理論で、とうとうリツは織江に認めさせた。一史が土下座して頼んだことも一因だったが。

 

 こうして灯里はリツを母親代わりに料亭と廊下続きの『母屋』で、2つ違いの異母姉妹の繭里は父母の愛情に育まれて『離れ』と呼ばれる同じ敷地内の家で、それぞれの人生を歩むこととなった。

 

 そしてしゅうは、地元でも有数の歴史と格式を誇る『北賀楼』の斜め向かいに住む、ふたりの異母姉妹の幼なじみだった。柊には7つ年上の兄がいたが、年が離れているせいかあまり一緒に遊んだ記憶がない。むしろ2つ上の灯里と同い年の繭里の方が、兄弟姉妹のようだった。

 

 物ごころついたときから3人はいつも一緒だった。子供だった柊には北川家の複雑な事情などわからなかったが、灯里は本当の妹のように繭里をいつも気にかけ可愛がっていたし、繭里はそんな姉を心から信頼し甘えていた。

 子供の頃から思慮深く賢かった柊は、そんなふたりにとって何でも話せる幼なじみであり、願いを一生懸命叶えてくれようとする頼もしい存在でもあった。

 

 

✵ ✵ ✵

 

「灯里は、どんな花が好きなの?」

 中学に入ってセーラー服姿が眩しく見える灯里に、柊はそう訊いたことがあった。

「カラー」

 そのとき灯里は、少しも迷わずにそう答えた。

 カラー? 

 

小学生だった柊は、カラーがどんな花なのか知らなかった。

 小学校の図書館で、柊は花図鑑のページをった。そして見つけたカラーの花は、どきどきするほど灯里のイメージそのままだった。

 花というのはたくさんの花弁を持ち華やかで可愛らしいものという、これまで柊が抱いていた観念をカラーの花はあっさりと裏切った。

 

 およそ花らしくない形ですらりと伸びた白い花弁は、心ない進入を拒絶するかのように凛と潔く、すくっと瑞々しい緑の茎もその意志の強さを支えているかのようだ。

 花言葉は『純潔、乙女のしとやかさ、情熱(色つきのもの)』、それは灯里に合っているようでもありまったく違う感じもした。柊がカラーの花から受けた印象はむしろ『神秘、気品』で、それなら灯里にぴったりだと思った。

 

「繭里は、たとえるならどんな花だろう?」

 好奇心からさらに花図鑑のページを繰った柊は、まさに繭里のイメージにぴったりの花を見つけた。

 それはポピーだった。こちらは丸みのあるやわらかな花弁を持つ、まさに花らしい花。赤や黄色、白、オレンジと色とりどりに咲き乱れる様子も、表情がくるくると変わる愛くるしい繭里を思わせる。

 花言葉は『七色の恋、なぐさめ、忘却』。恋は繭里によく似合う、だけどなぐさめや忘却はむしろ女の子らしい繭里が与えられるもののような気がした。

 

 とにもかくにも見た目も性格も、持って生まれた宿命すらも異なるこの異母姉妹と、柊は多くの時間と思い出を共有しながら大きくなった。

 

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