第3章 キミが居た場処-2

 

 ガツガツガツガツガツガツ。

 野々村家のリビングで、子犬が一心不乱にドッグフードを食べている。汚れていた子犬を取りあえず綺麗にしたたらいとタオルを片づけて、柊の母の瞳が戻ってきた。

 それまで子犬を撫でたり、食べる様子を嬉しそうに見守っていた3人は、瞳の前で揃って正座した。それを見て、瞳がやれやれと言った表情になる。

「お父さんに訊いてみないと」

 瞳の第一声を聞いて、3人が項垂れる。

「おばさん、お願い」

 意を決したように、繭里が言う。それを合図に、3人は揃って三つ指ついて頭を下げる。

 

 ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。

 子犬は今度はボウルに入った水を勢いよく飲みはじめた。

「ウチでは無理なんです。お祖母様が許さないから」

 灯里がそう言うと、繭里も続ける。

「この仔、独りなの。かわいそうな仔なの。誰かが飼ってあげないと死んじゃう」

「お母さん、僕、ちゃんと面倒見るから。散歩も連れてくから」

 そういう息子に、瞳は言った。

 

「柊が、そんなに犬好きだとは知らなかったわ」

 灯里と繭里への優しさから、息子がそう言っているのは母親だからすぐにわかった。でも柊は、そんな母にきっぱりと言った。

「お母さん。僕、犬飼いたかったんだ、ずっと。お父さんに、ちゃんと頼みます」

「そう。じゃあ、柊が責任持って頼みなさい」

「うん」

 灯里と繭里が嬉しそうに顔を見合わせて、それから柊に懇願するような眼を向けた。

「大丈夫、僕にまかせて」

 そんなふたりに男らしく約束する息子を、瞳は密かに頼もしく思った。

 

 

 次の日の朝、灯里と繭里は、柊からとても嬉しいニュースを訊かされて飛び跳ねた。

「ほんとぉ?ありがと、柊ちゃん」

「名前、決めなきゃ。ね、繭里」

 嬉しそうな幼なじみの姉妹を見て、父親説得に意外に苦労したことなどすっかり吹っ飛んでしまった。

「でも毎朝、ちゃんと散歩に連れてくようにって言われたよ」

「ね、3人で行こう?毎朝」

「うわぁ、楽しみ!絶対そうしよう?」

 灯里と繭里が飛び跳ねたりスキップしたりしながら、本当に嬉しそうだ。

 

 学校から帰ると、灯里と繭里はランドセルを置くやいなや、すぐさま柊の家へ行って子犬と遊んだ。

念のためと瞳が獣医さんに連れて行ってくれて、子犬は生まれて半年くらいの男の子だと言われたそうだ。血液検査などもしてもらって、栄養失調気味だけれど、とくに問題はなさそうだと訊いて、3人は安堵した。

「名前どうする?」

 と柊が訊く。

 繭里は大好きな「アルプスの少女ハイジ」の犬と同じ名前ヨーゼフがいいと言い、柊は尊敬する物理学者・天文学者のガリレオがいいと言い、灯里は日本の犬だから小太郎が可愛いと言った。結局、拾われた強運と、これからもそれが続きますようにという思いを込めて「ラッキー」に落ち着いた。

 

 そして3人は本当に毎朝、揃ってラッキーと散歩に言った。楽しかった。

 でもラッキーは残念なことに、わずか5年で病気のために亡くなってしまった。3人は泣いた。そして命には限りがあることも身を持って知った。見上げる夜空の星になったラッキーは、いまも3人の大切な思い出としてそこにいる。

 

 

✵ ✵ ✵

 

 早朝のランニングから帰ってシャワーを浴びた柊を、久しぶりの母の朝食が待っていた。ランニングに出かける前はまだ寝ていた父のたけしももう起きていて、親子3人でテーブルを囲んだ。

 野々村家の朝食は、母の気分次第で和食だったり洋食だったりする。この日は和食で、納豆と卵焼き、ひじきの煮物、ほうれん草のおひたし、なめこと豆腐の味噌汁。食後に林檎を食べ、コーヒーを飲んでいると父が訊く。

 

「院はどうだ?」

「うん、もうすぐ産学協同のプロジェクトがはじまるから、忙しくなる」

「そうか、がんばって勉強しなさい」

 県内の信用金庫に勤める柊の父は、堅実で寡黙な人だ。それだけ言うと、再び新聞を読みはじめる。代わりに母が、久しぶりの息子との会話を楽しむように話しかけてくる。

「そう言えば昨日買い物に行くとき、繭里ちゃんに会ったけど、結婚してだいぶ経つのに子供はまだなのね」

「元気にしてる?繭里」

「せっかくだから、会っていけばいいじゃない。幼なじみなんだし」

「うん」

 

「でも」

 と母が思い出したように言う。

「灯里ちゃんは、いま頃どうしてるのかしらねぇ?」

 そう言われて柊は、思わずコーヒーを吹きそうになった。

「あれから一度も帰ってきていないみたいよ。灯里ちゃんがいなくなってから、いろんな噂があったけど、後ろ盾だったリツさんが倒れた途端に、あんなことになるなんてねぇ」

 あんなこと、とはもちろん灯里に替わって繭里が勝哉と結婚したことだろう。

 

「いろんな噂って?」

 どんな噂が流れているのか、柊は灯里のために気になる。

「やっぱり、強引なのがよくなかったんじゃないかって」

「強引?」

「そう、リツさんのやり方よ。だって一史さんと織江さんのことだって。結局、一史さんは好きだった万祐子さんを忘れられなかった訳だから…」

「やめなさい、人様のウチのことだ」

 新聞を読んでいた父がそう言って嗜《たしな》めたので、柊もそれ以上訊くことはできなかった。だけど母の話だと、リツが強引に灯里と勝哉を許婚にして、リツが倒れた途端、勝哉はもともと好きだった繭里と結婚したことになる。 

 

 それじゃあ、灯里があまりにも可愛そうじゃないか。おまけに影でそんな噂話までされたら、帰ってきたくても帰れないだろう。それが本当なら、繭里や勝哉とも顔を合わせたくないのだって当然のことだ。

 柊は自分の気持ちより、灯里のことを思って心ない噂話に憤慨したが、それを隠すように言った。

「お母さん、コーヒーもう一杯ちょうだい。僕、自分の部屋行くよ」

「うん。お昼までゆっくりしてなさい。お昼、何か食べたいものある?」

「そうだな。あ、お母さんのちらし寿司」

「了解!まかせなさい」

 十八番のひとつであるメニューを息子にリクエストされて、母は嬉しそうにそう言って笑った。

 

 

 コーヒーを持って自分の部屋に戻ると、柊は窓を全開にした。薫風の季節の爽やかな風が流れ込んできて、頬をくすぐる。階下に『北賀楼』の勝手口が見えて、懐かしい灯里の姿が昨日のことのように思い浮かぶ。

 灯里の家の事情が、普通の家と異なることを具体的に意識したのは、小学校の高学年頃だったろうか。それは、繭里がぽつりと言った言葉がキッカケだった。

 

「繭里とお姉ちゃんは、一緒にご飯は食べないの」

「え?どういうこと?」

「繭里はパパとママと離れのおウチで食べるけど、お姉ちゃんは朝御飯も晩御飯も母屋でお祖母様と食べるの」

「それ、いつから?」

「ん?生まれたときから、ずっとだよ」

「でも灯里も、パパとママと一緒に暮らしてるんだよね?」

 そう訊ねる柊に、繭里はまるで当たり前のように言った。

「お姉ちゃんは、お祖母様と母屋で暮らしてるよ。お姉ちゃんのお部屋はそこにあって、ウチにはないの」

 いつも一緒で仲の良い異母姉妹の陰の事情に、柊は心がひやりと冷たくなるのを感じた。

 

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 【blog限定SS】はじめてのエッ〇

 ♂(えぇと、まず優しくキスをして、それから

  髪をそっと撫でてて、「好きだよ」と言って彼女の眼をじっと見つめる…

  ああ、こっぱずかしい。。。(-_-;) )

 マニュアル男子よ。

 それは〇ッチにおけるABCだ。

 そこから先は、オリジナルの男子力がものをいう。

 がんばろ~!(^_^)/

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