第8章 秋色吐息-6

novel8-6 激しく抱いて傷つけて
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アレンと星奈の、文字通りビッグカップル誕生は、柊の心に陽だまりのあたたかさを運んだ。あんな風に、正直にシンプルに微笑ましく向き合えるふたりは幸せだ。

少しだけ希望を胸に、柊は自室の2階の窓から秋の夜空を見上げた。

あれから灯里とは話すどころか、眼も合わせていないけれど、今日は一つだけいいことがあった。仕事から帰って来た灯里が、柊の部屋を見上げて立ち止まったのだ。ほんの数秒。

たったそれだけで、柊の心に希望が灯った。毎日のように部屋の灯りも点けずに、窓を細く開けて灯里の帰りを待つ自分は、情けなくてやり切れない。でも、そうしてでも灯里の気配を感じていたい。部活で遅くなる灯里の帰りを待っていた、あの頃と同じように。

それにしても、と柊は思う。自分はなんて進歩していないんだ。むしろ後退している。灯里を激しく傷つけておきながら、自分はまだ子供のように灯里を欲しがっている。手に入らないおもちゃを強請ねだって泣き叫ぶ幼児のように、自分の心が暴れているのを柊は実感する。

 

僕は、聞き分けのいい子供だったのに…。

それは7つ年上の兄の影響もあったかもしれない。

「いいか、柊。いま目の前にあるものがすべてじゃないんだ。たとえばいま欲しいと思っているゲームだってフィギアだって、直に新しいバージョンが出る。大事なのは本当に欲しいものを見極めることで、そのときに買えるように準備しておくことなんだ。だからな、柊。欲しいと泣き叫ぶ前に、お小遣いやお年玉を貯めておけよ。その方が、男としてカッコいいとお兄ちゃんは思うぞ」

 

堅実で生真面目な兄らしいアドバイスだった。同級生にはできない大人の意見に、小学生だった柊はもっともだとうなずいた、そのときは。

いまは思う、男としてたとえどんなに無様ぶざまでもカッコ悪くても、欲しいものを手に入れたい。新しいバージョンなんていらないんだ、本当に欲しいものに出会ってしまったら。

だけどそれが手に入らないおもちゃなら、僕は未練たらしく泣き叫ぶだろう。そして何としてでも手に入れようと思うだろう、無理やりにでも卑怯な方法を使ってでも。

灯里、キミはこんな僕を軽蔑するかい?

 

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✵ ✵ ✵

 

セックスは、怖いものだと思っていた。

生まれたてのヒナが初めて目にした動くものを親だと認識するように、知識すらまだほとんどなかった高校生の灯里にとって、セックスとは酷く暴力的で悲しく苦痛に満ちたものだった。

親にすら姉妹にすら見られたことも触れられたこともない、躰と心の深部に無遠慮に踏み込まれることの不快感、恐怖、怒り。他人の肌はどこまでいっても他人で、気持ち悪いことこの上ないものだった。

 

だけど柊は違った。柊だけは、他の誰でもなく、世界でただ一人の柊というかけがえのない存在で。

眼と眼があった次の刹那、もう怖くても傷ついても、触れたい、触れあいたいと思った。

そして最初の柊との体験は、覚悟していたほど残酷なものではなかった。緊張していたせいで、いまでは記憶が曖昧だけど、快感がなかったかわりに苦痛もなかった。ただ愛しい人のぬくもりが温かく甘く切なかった。

 

そしてもうないと思っていた2度目は、1度目と全然違っていた。むしろ優しく、灯里の躰と心を探り、解きほぐそうとしていた。それはいっそう灯里を戸惑わせたけれど、セックスは怖いものではないかもしれないと一筋の光が見えた。

初めての快感を知ってからは、躰が勝手に柊を求めて啼いた。先走る心に、躰はゆっくりゆっくりと追いついてきて、やがて歩調を合わせはじめた。

心が濡れれば躰も濡れる、その実感は目の前にある手の届く幸福だった。

肌と肌が触れ合うすべてが、見つめ合う眼と眼が、求め合う唇と唇が、少しの狂いももなく流れるように一つの旋律を奏でた。

 

あのときまでは。

終わりにしようといった言葉が引き金になった、初めての不協和音。それは激しく手酷いものだった。なのに…。それすらも不協和音という、ふたりで奏でた旋律だといまは不思議なほど信じられる。

同じようでいて、まったく違う暴力的なセックス。それを望み、相手が愛しい人ならば、浅ましいことに快感すら生まれた。

それはあたかも書き換えのようで…そう灯里は思って、自分の中にむ利己的で淫靡いんびな獣を嫌悪した。

 

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自分のマンションがある駅で降り、柊のアパートの前まで来ると、灯里は立ち止まって灯りの点いていない彼の部屋を見上げた。

あの頃のように。

柊の部屋の窓からスタンドの灯りが漏れていれば、受験勉強に頑張っているであろう柊に「がんばって」と心の中で声を掛けた。暗ければ、休憩だろうか、お風呂だろうかと思いながら通り過ぎたものだ。

いまは。

柊にかける言葉が思いつかない。自分の進む道もはっきりと見えない。これが正しい道なのか、迷い道なのかわからないまま、灯里は夜の闇に足を踏み出した。

 

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