妄想ダイアリー「気のながい秘密」

久しぶりに、本当に久しぶりに寝込むほどの風邪をひいた。

 

昨日からあった熱が少し引いたのか、身体のきしみがだいぶ楽になった。

だからあたしは背中にクッションをいくつか当てて、

もたれかかるように身体を起こした。

 

枕元のぬるくなったペットボトルのお茶に手を伸ばす。

本当は冷たいのが飲みたかったけど、氷を取りに行くのさえ億劫おっくうだ。

でも常温のお茶は、意外なほど熱の名残りがある身体を、

優しくゆっくりと潤してくれた。

 

車のクラクションがして、何げなく窓の外に目をやる。

不思議だ。

これまでは自分が存在していた階下の風景が、

まるで自分が存在していない世界のように隔絶した感覚がする。

映画やドラマとまではいかないけれど…そう、現実世界に

軽く見放された感じ?

 

あたしは自分をいっとき見放した架空の世界を楽しみはじめた。

 

小学生くらいの子供たちがバットやグローブを手に通っていくと思ったら、

急に立ち止まった。向こうからやって来るのは

いつもコンビニでガラの悪い視線を放ってくるヤンキー。

そのヤンキーがあっという間に子供たちに囲まれた。

え? なつかれてる?

ヤンキーは子供たちにスウェットを引っ張られたり、背中を押されたりして

どこかへ拉致らちられていく。公園へでも行くんだろうか。

へぇ、意外にいいヤツだったんだな。

 

次は、名前は知らないけど気になっていた美人のお姉さん。

くるんと巻いた髪から、綺麗に磨かれたぴんヒールの先まで

いつもスキがない。メイクだって今日もバッチリ。

隣にはいつも彼氏がエスコートしていて…あれ?彼氏また変わった?

うらやましい限りです。ふふふ。

 

いつものお母さんたちは、いつもの場所で井戸端会議だ。

よくそんなに話すことがあるなと思うくらい、

かれこれ30分は話し込んでいる。

「もうね、ウチの子ったら反抗期でね」

「あら、ウチなんかパパは臭いって口もきかないの」

「うちは旦那がね…」

勝手にアテレコしてみる。平和だ。

 

また、少しぬるくなったお茶を口に含む。

 

やすくんが、速足でやって来るのが見えた。

今日は土曜日だけど出社して、

「夕方には行けるから」って言ってた。

手にしてるスーパーの買い物袋からは、ネギがのぞいてる。

きっと卵おじやだ。あと、絶対みつまめの缶詰も入ってる。

 

「え~、桃の缶詰じゃないの?」

「ばか。ウチのばあちゃんは、風邪ひくといつもコレだったんだ。

風邪って言ったら、みつまめの缶詰だろ。…嫌いか?」

そんなことないよって言っておいた。

あたしもおじいちゃん子だったから、なんかわかる。

そして、おばちゃんの意見は正しいって思ってるやすくんが結構好き。

 

もうすぐ合鍵が差し込まれる。

だから、あたしはクッションを背中から外して、再び布団に潜り込む。

ちょっと、タヌキになるね。

 

もしも、もしも、やすくんとこのままいい関係が続いて、

結婚して仲良くおじいちゃんとおばあちゃんになったら、

そのときは言ってみてもいいかな?

「あたし本当は、みつまめの缶詰より桃の缶詰の方が好きだよ?」

 

おじいちゃんになったやすくんも

「え~~~っ」

て言うんだろうか。

そのとき仲良くケンカできるふたりでいれたら、いいな。

気のながい秘密は、そのときまで取っておく。

 

 

さくらの恋猫「膣トレ」と「感度」の両方を磨けるアイテム♪

女子の感度磨きに♪ラブコスメ女子の感度磨きに♪ラブコスメ

タイトルとURLをコピーしました