第9章 逆 流 -3

Hotel激しく抱いて傷つけて
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駅前のグリーンホテルへチェックインしてカードキーを受け取ると、柊はまず灯里を部屋へ連れて入った。

「灯里、少し休んだ方がいい」

そう言って灯里のマフラーを取り、コートを脱がすと、手を引いてベッドへ促した。そして靴も脱がせて灯里をベッドへ横たわらせると、そばにあった椅子を引いて腰かけ、灯里の手を握った。灯里の小さな手が、とても冷たいのが切ない。

「灯里、何か食べる?」

ふたりとも新幹線の中でコーヒーを飲んだきり、今日は何も口にしていない。空腹はあまり感じないが、疲労感は食事をしていないことも要因かもしれないと柊は考えた。

しかし灯里は黙って首を振る。

「でも、夕食くらいは取らないと。僕、自分の部屋へ荷物を置いて、それから何か買ってくるよ」

「いや」

灯里が小さくそう言って、柊の手を強く握った。

「独りにしないで」

「大丈夫だよ、すぐに戻ってくる。灯里はこのまま待っていて」

「いやっ。独りにしないで。独りは怖いっ」

灯里がベッドから半身を起こし、すがるように柊の手を両手でつかむ。

 

 

灯里、何が怖いの?

ここはキミの生まれ故郷じゃないか。

なのにキミは慣れ親しんだ母屋へ行くのを、あんなにも嫌がった。

怖がる理由も、そこにあるの?

それに、誰にも会いたくないって…。

通夜や告別式では、沢山の知った顔に会うんだよ。

それをわかっていても、キミは帰って来ないわけにはいかなかった。

お祖母様のために、最期の別れのために。

でも、本当に大丈夫なのか?

灯里。

 

 

「柊ちゃん、お願い」

怯えきった表情の灯里が、可哀想でならない。灯里に手を引かれるままに、柊がその横に寝ると、震える華奢な躰がしがみついてきた。

「灯里…」

「柊ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい」

「灯里…」

力の限り抱きしめても、抱きしめても、灯里の不安と悲しみが消えない。なぜだかわからぬままに、でも柊はだからこそいっそう強く、灯里を抱きしめた。

 

リツの前で一粒の涙すら見せなかった灯里が、いま迷子のように途方に暮れて泣きすがっている。その姿に、柊の胸は激しくえぐられ痛みを覚えた。

「灯里、大丈夫だよ。独りになんかしない。僕がいるから、僕がそばにいるから」

その言葉に灯里はいっそう躰を震わせ、懸命にしがみついてくる。躰中をこわばらせ、見えない恐怖や孤独と戦うように、得体のしれない悪夢から逃れようとするように。

「お祖母様、ごめんなさい。ごめんなさい、あたしが悪いの、全部あたしのせいなの」

 

いったい何が?

キミが料亭を継がなかったこと?

だけどそれは繭里が、ちゃんと継いでるじゃないか。

キミたちのお父さんだって、了承したことなんだろ?

それなのに何故、キミが、こんなにも苦しむんだ。

 

心が崩れ落ちてしまいそうなその夜の灯里を、柊は抱き続けた。幼子にするように頭を撫で、背中をさすり「大丈夫だよ、安心して、いい子だ」と何度も呼びかけながら。

明け方近くになって、泣き疲れてやっと眠りについた灯里の頬に残る涙を、柊は指でそっとぬぐった。

 

 

 

✵ ✵ ✵

 

「やっぱり、ちょっと狭いね」

ビジネスホテルのユニットバスに湯を張り、柊は灯里を後ろから抱きながらそこに身を沈めた。お湯がちょっとこぼれて、狭い床を濡らす。

少しぬるめのお湯で時間をかけて温まりながら、柊は灯里の肩に顎を乗せる。昨晩よりはだいぶ落ち着いたように見える灯里が、眼を閉じてじっとしている。震えは、もう感じられない。

「あったかい?灯里」

灯里が小さくこく、と頷く。それが心もとないほど可愛らしくて、灯里を抱く柊の両腕に力が入る。

「もう、怖くない?」

灯里はまた頷くと、自分を抱きしめる柊の腕にそっと触れながら言う。

「でも、淋しい…」

柊は思わず灯里の肩から顎を離して、灯里の顔を覗き込むようにして訊いた。

「淋しい?どうして」

灯里が頭を振る。

「わからない」

 

僕がこんなに傍で、抱きしめているというのに。

僕はキミの心を温めることすらできないのか。

だとしたら、なんてちっぽけで情けない存在なんだ。

 

「灯里、さあ、髪を洗ってあげる。狭いけど、ちょっと立って」

柊は灯里を立ち上がらせると、シャンプーを取り灯里の髪にたらした。灯里は大人しく洗われるままになっている。洗い終わるとコンディショナーをつけて、ゴムで髪を一つにまとめ上げた。

それから石鹸を手に取り、スポンジも浴用タオルもなかったので、灯里の躰にそのまま白い塊を擦りつける。それから灯里の躰を撫でながら、泡を立てる。胸や秘処にも手を当てて洗うのに、灯里はひっそりと立ったまま抵抗も反応もしない。

こんなとき反応する自分を柊は恥ずかしく思いながらも、灯里を洗う手を休めない。

それから浴槽の栓を引き抜き、灯里の躰についた泡をシャワーで流した。最後に髪のコンディショナーを軽く流すと、柊は言った。

「さ、終わった。僕も洗うから、灯里は先に出ていて」

そう言ったのに、灯里は心細げな表情で動こうとしない。

 

「じゃあ、今度は灯里が僕を洗う?」

灯里はこくんと頷くと、シャンプーをその小さな手に落とした。

「せっかくあったまったのに、冷えるといけない」

柊は灯里の躰にシャワーをかけながら、灯里の背に合わせて身をかがませる。灯里の細い指が自分の髪の間に入るだけで、柊は胸が高鳴る。

「あ」

髪を洗い終わって、柊の躰に石鹸を這わせようとした灯里が、そう小さく言って手を止めた。

「しょうがないよ、これが僕の気持ちだから」

「気持ち?」

「うん、いつだって僕は灯里を強く求めている。躰は心より正直さ」

それを訊いた灯里が一瞬、ほうけたようになって、それから顔を真っ赤に染めた。

「もう、わかってるだろ?灯里、僕はキミがたとえ嫌がったとしても、ずっとキミの傍にいるよ。遠くからでもいい、でもできれば寄り添いながら、僕はキミだけを見つめ続けるよ。これまでも、これからも」

灯里が真っ赤な顔のまま、少しうつむいて考え込んでいる。

「ほら、洗って、灯里。キミが冷えてしまう」

そう言って、また柊は灯里の躰全体にシャワーのお湯をかける。

「柊ちゃん…」

「ほら」

うん、と頷いた灯里は、今度は迷うことなく柊の全身を泡立て洗った。柊の想いの証も、丁寧に包み込むように。

それからふたりは、そっと口づけし抱き合うと、無言でユニットバスを出た。

 

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