妄想ダイアリー「いちごパフェ」

ねえ、知ってる?

いちごパフェの苺はね、いつも甘いとは限らないんだよ。

ときどき酸っぱいのが混じってて、「うっ」て思うときがあるの。

でもね、すぐにアイスクリームの甘さが

口の中をもっともっと幸せにしてくれるんだ。

 

そう言ってキミは、くしゃって笑った。そう、くしゃって。

 

 

退屈な議論が延々と続く中、僕はそんなことを思い出していた。

この無限に続くような時間だって、永遠とは限らない。

いつか終わる、そういつか終わるんだ。

それに神妙な顔を強いられる会議だって、

僕の思考の中までは拘束することなんてできやしない。

ざまあみろ。

 

 

「成瀬、お前どう思う?」

おっと、危ねぇ。

「部長のご意見はごもっともです。それを基本にして、

次回までに各々が修正案を考えて持ち寄ればいいんじゃないですか?」

「…そうだな」

 

 

ねぇ、キミ。

僕はあれから、ときどきいちごパフェを食べるんだけど、

酸っぱい苺にはどうしても出逢わないんだ。

でもそれならそれでよくって、

僕は酸っぱい苺を探し続けるだけなんだけど。

 

「いちごパフェなんて、嫌いなくせに」

キミはそう言って笑うだろうか。

 

 

 

2020年4月、ちょうど一年前の晴れた朝。

キミは原因不明の病気で、この世を去った。

僕を独り、置き去りにして。

 

いちごパフェの甘い夢が溶けるのは、一瞬なんだな。

 

 

-了―

 

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