※R15です、たぶんR15。(当社比)
『ムーンライトノベルズ』の方で、
「この二人の大人シーンが想像できなかった」的な
コメ貰ったけど、こーなります。(*´ω`*)
第9話 大型犬と子リス
「子リス~っ」
「も、もうっ。大型犬、しつこすぎっ!」
〈すうぷ屋〉さんのスープに癒されて、そのスープを〈すうぷ屋〉さんの大切な人のために再現して、そしてその息子に私は初めてを食べられてしまった。たぶん…おいしく?
大型犬が、がうがう接近してくる。
「子リスっ。ほら、このピスタチオ食べてみて?」
なんでだよ、なんのプレイだよと思いながら渡されたピスタチオのカラを剥こうとする。
「あ、こら。ダメ!手で剥くなんて横着しないで。ちゃんと歯で噛んで剥いて」
そう細かく指図される。
手より歯で剥く方が絶対、横着だよねと思いつつ、しょうがないので前歯でかりりっと上手にカラを剥がした。
「か、可愛い。可愛いすぎる!」
そういうと大型犬は、がばっと私に覆いかぶさってくる。普段は彫りが深くてキレイな顔立ちが、にやけきっててエロい。ま、これはこれで正直で可愛いけど…。
「ちょ。待って。もう無理っ」
「え~、もう一回、ねっ」
ねって言われても…。ねっ?
山岸くんと私は、身長差もあるけど体力の差だってめちゃくちゃある。無駄に長い手足に、私は難なく絡めとられて身動きできない。しかも若いから、超無駄に元気だ。
「ちょ。待って、大型犬と子リスじゃ、異種格闘技だからっ」
「うゎ、子リス、えっち。じゃ格闘しよ、思い切り。勝負!」
嫌です、身が持ちません。勝負なんて、目に見えてるし。組みふされて、好き勝手されてよれよれになるだけ。
あのカフェでのバイトは、無理やり辞めさせられた。しかもいまは、山岸くんがネットで注文したピンクのメイド服を着せられている。
「これ、黒と白がクラシックでよかったのにぃ~」
「うん?じゃ、次はモノトーンなやつ、オーダーするから」
大型犬はメイド服を着せたり脱がせたり、忙しい。
「あっ…ん。ダメ、そこはダメェ~」
「あは。ここ感じやすいんだよね。子リス、虐めがいあるぅ~」
ちょ、舐めすぎだからっ!
でも。
くりくりヘアに両手をつっこんで、透流の顔を覗き込む。濃くて長いまつげの奥は、少しクールで寂しげで、心がキュンとなる。そのクールな目がこのひとときはやさしい熱を帯びて、細いけれど骨格のしっかりした顔がとてもセクシーで愛おしい。
透流の声が好きだ。ちょっと低めのハスキーボイス。子リスと呼んでくれるときの、喉仏に見入ってしまう。薄い唇も好き。私のぽってりした唇を余裕で覆って食べちゃう、透流の唇。
私の頬を触る、骨のしっかりした長い指も好き。キュって握ると、硬くて骨ばっている。指の長さも手の大きさも、私の1.5倍くらいで萌える。
左手の手の甲には、従姉妹の陽向ちゃんをかばって怪我したという傷が残っている。私はそれを小さな勲章と名づけて、キスするのが好きだ。それは透流のやさしさと強さの証。
私、変なところのフェチだったんだな。声とか喉仏とか、骨とか筋っぽいところとか。ううん、透流のだから傷だって愛おしいのかもしれない。
だってこの想いがなければ、きっとはじめはなんて動物的な行為なんだろうって思ったエッチを好きになんかなれなかった。だって親にだって見せるのは恥ずかしいと思うところまで、見せ合いっこできるんだもの。平気でキスしたり、舐め合ったりできるんだもの。自分でも、びっくり。
「子リス、いまソコきゅってなったよ?」
大好きな骨ばった長い指が、私のある部分を行き来してる。そう考えただけで、体中の血が騒ぎ出す。
「ここ、好き?」
「んんんっ」
答える代わりに仰け反って、その小さな部分を透流の親指に押しつける。
「抱っこ」
眉根を寄せてそう訴えると、「おいで」と嬉しそうに透流が私を抱き上げて、自分の上に跨らせる。透流の胸にやっと頬が届く。私はそうして、懸命に自分の気持ちのいいところを探して動く。私が感じていく過程を見るのが、透流は好きなんだそう。
「はぁあっ。ど、どうしようっ…」
どうしようもなくなった私が胸の上でぴくぴくして、動かなくなると、透流はその長い手足で包み込むように抱きしめてくれる。
他に比べるものがないからわからないけど、透流とのエッチはとても気持ちいい。私の躰と心のヒダが、震えながらそう訴えている。そして透流の硬さが、それに応えてくれるのがわかる。
好きだから。気持ちと脳と躰が、素直に反応する。大きな透流の躰が私を包み込んで、私たちはやがて溶け始める。途中で何度もキスをねだる。いつぱいいっぱいキスをして、透流が私の体中にキスを落とし続けるのは金色の至福の時間だ。
「もっと、キスマークつけたい」
「ん」
嬉しくて涙目で私は頷いて、透流の重さを全身で受け止める。首筋に、鎖骨に、胸に、透流が今日の証をつけていく。
私は透流のスープで、透流は私のスープで、それは互いの躰の中に注がれて混じり合って、細胞の隅々にまで行き渡っていく。
世界にたった一つの、大切な人のためだけのスープ。
お互いに、かけがえのない存在だと伝えるために、ただそれだけのために存在する至福のスープ。
きらきらとした星が、夜空から降ってきて、輝きながらスープの川を流れていく。
やがてくたりとなった私の横に、寄り添うように来た透流が言う。
「俺たち、きっとコインの裏の世界でも、おんなじことしてる気がする」
「あ。私もいま、そう思ってた」
顔を見合わせて笑い合う。そして感謝する。
透流が透流であることに、私たちが出逢えた奇跡に。私たちをこの宇宙に存在させてくれたすべての人に。
そして願う。その人たちすべての癒しと幸福を。
透流と私が心地よくけだるい疲れとともに、手をつないで夢の世界へ浮遊し始めた頃。
時計の長針と短針が、宇宙の25時を知らせた。
‐了‐
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